国土交通省 住宅局 石井氏に聞く、空き家問題の現状と法改正のポイント

2023年9月に設立した全国空き家対策コンソーシアムは、空き家所有者・行政担当者に向けて情報提供を行い、空き家問題への意識啓発・解決の支援を行っています。

今回は、空き家対策の推進に携わる、国土交通省 住宅局 住宅総合整備課 住環境整備室 室長 石井秀明氏に、空き家問題の現状やこれからの空き家対策に関して聞きました。

(聞き手:株式会社クラッソーネ 山田・近土)

1.そもそも空き家の問題とは?

昨今空き家の増加が問題となっていますが、空き家によりどのような問題が起こっているのでしょうか?

空き家数は5年に一度統計をとっていますが、これまで減ったことはありません。大きな問題である反面、昭和の後半までは住宅の数が世帯の数よりも少なかったこともありますし、使える空き家は、ある意味「住宅の在庫」として一定数は必要なものでもあります。

空き家の数ももちろんですが、空き家の何が問題かというと「放置されている」ということです。

空き家の放置は2つの問題をはらんでおり、それは「物理的な問題」と「所有権の問題」です。

「物理的な問題」としては、管理されず放置されることで、不具合の発生が発見されにくく、空き家が早く傷んでしまい、最悪のケースでは近隣住民の安全安心な生活に悪影響を与えてしまうことが問題となります。

「所有権の問題」というのは、空き家の所有者がネズミ算的に増えてしまう「所有者多数の問題」を進行させてしまうことです。

空き家が発生する機会として55%が相続と言われており、その際に遺産分割協議をしないで放置することで、法定相続となり、兄弟の数だけ所有者多数の問題が発生します。そうすると、売却・賃貸・除却等の合意形成を行うことが難しくなってしまいます。

地方部と都市部で空き家に関する課題の違いはあるのでしょうか?

空き家問題において「地方部と都市部」は「土地利用のニーズが高いエリアか否か」で考えると良いと思います。あえて「エリア」としたのは、一つの市町村の中にもニーズの高いエリアとそうでないエリアが存在しているからです。

「土地利用のニーズが高いエリアか否か」における課題に関して、まず大きな違いとしては空き家所有者のマインドです。

土地利用のニーズが高ければ「自分の空き家を更地にすれば売ったり貸したりできるだろうな!」と思うでしょうし、土地利用のニーズが低いエリアでは「更地にしたところでどうしようもないし…」と思うでしょう。    

また、土地利用のニーズが低いエリア特有の課題としては、人口流出傾向があるため、所有者も遠隔地に住んでおり、管理に手間がかけられない問題が発生することです。

所有者のマインドや環境により、土地利用のニーズが低いエリアでは空き家が「放置される」という状況が起こりやすいということになりますね。

★POINT★ ・空き家は放置されることが問題であり、地域の安全安心に関わる「物理的問題」と、合意形成が困難になる「所有権の問題」が存在している
・土地利用のニーズが低いエリアは所有者のマインドの面や、所有者が遠方に住んでおり管理が難しいといった面で、空き家の放置に繋がりやすい

2.現在の空き家対策とその課題

これまで行ってきた空き家対策として有効だと考えられているものはありますか?

まず、2015年に施行された「空家等対策特別措置法」ができたこと自体がすごく大きな出来事だったと感じています。

それまでは、すでにある民間の建物はあくまでも個人の所有物であり、自治体の住宅・建築政策は、ほとんどが市営住宅の管理や新築の建物の建築確認という業務に留まっていました。そこで「民間の建物、既存の建物に関する仕事も公共団体の仕事なんだ」と意識の変化を起こしたのが、「空家対策等特別措置法」なのではないかと思います。

「空家等対策特別措置法」は老朽化した危険な空き家を自治体が「特定空家等」に指定し、最悪の場合、自治体により除却を行うことができるといった内容です。「除却促進法」ともいえる施策になっています。各自治体には法に基づいて非常にしっかりと対応していただいていますので、「危険な状態の空き家の除却」という部分は、法の制定によりうまく進んだ部分だと考えています。

一方で、空き家の活用は、上手く進んでいない部分があります。具体的には、空き家の活用に対する目的意識が「空き家をどうにかする」という「プロダクトアウト発想」になってしまっている事例が多いということです。

活用というのは、「空き家が必要とされている(需要のある)建築に生まれ変わる」という「マーケットイン発想」が重要です。古い空き家を改修しても、誰も使わない、需要がないのであれば、「空き家を改修して空き家を作っている状態」だと言っても過言ではありません。

新しい用途に生まれ変わる、本質的な空き家の活用をするにはどうしたらよいでしょうか?

先に「空き家をどうするか?」ではなくて「この街には、このエリアには何が必要なのか?」という発想を持ってもらうことが重要です。

そして、空き家対策と言われていない分野がカギになります。

商業振興や観光振興、歴史まちづくりや、福祉的利用、セーフティーネット的利用など…別の分野の視点で「そこに空き家があるなら丁度使える!」という思考から活用方法を考えはじめると、上手くいくのではないかと思っています。

実は、空き家対策の担当でない分野において、自然と空き家活用がなされている事例もあるんです。

例えば、「認知症の方のためのカフェにするために近隣にあった住宅を改修した」という事例では、介護福祉の分野において空き家活用がなされています。そうすると予算としても、介護保険の予算で空き家活用もできてしまうのです。

すでに他分野により自然と空き家活用がなされているという事実に気づき、空き家対策の部署に留まらず他分野との融合による需要のある空き家活用を進めていただけたらと思います。

空き家の除却・活用以外に、放置される空き家の発生防止という点もありますが、良い事例はあるでしょうか?

発生防止の観点で面白い取り組みだなと思ったのは、死亡届を持ってきた方を空き家の担当部署に連れていくという事例ですね。

前にも説明した通り、空き家の発生契機の55%は相続です。「死亡届を受理する」という既にある行政システムをうまく活用して、空き家発生の可能性を検知し、発生防止に努めるという部分がとても良いと思います。

★POINT★ ・空き家対策特別措置法が作られたことで、民間住宅である空き家の対策に対する意識改革が起こった
・空き家活用においては、住宅関連部署に留まらず、他の分野の部署とのコラボレーションにより有意義な活用に繋がる

3.空家等対策特別措置法の改正で何が変わる?

より空き家の対策を進めるため、2015年に施行された空家等対策特別措置法が改正されることになり、12月13日に施行されました。具体的に変わるポイントは何でしょうか?

先ほど、除却に比べ活用があまり十分に進んでいないとお伝えしましたが、今回の法改正は、これまでの除却の取り組みがより円滑になると同時に、活用がより促進されるような内容となっています。

空き家所有者・自治体・民間団体それぞれの立場で、具体的にお話します。

①空き家所有者への影響

まず、空き家の所有者にとって大きなインパクトがあるのは「『管理不全空家』の勧告」です。今回の法改正で、老朽化し危険な状態である「特定空家等」の予備群として「管理不全空家等」が指定されるようになります。管理不全空家の勧告を受けると、土地の固定資産税の特例措置が解除されてしまい、固定資産税が増額となります。

ただ、すぐに管理不全空家等の勧告が行われるわけではなく、勧告以前には自治体からの指導というステップがあり、改善対応の猶予があります。

また、「管理不全空家等にならないためにはどうしたらよいのか?」という部分について、管理指針を国が示していきますので、参考にして適切な管理を行っていただけたらと思います。

▼管理指針等のガイドライン資料は下記よりご覧いただけます
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000138.html

②自治体への影響

法改正などにより施策が充実するということは、反面、現場で施策を回す自治体の担当者は忙しくなる…ということかと思います。

今回の空き家法の改正では、管理不全空家等の新設による対応が一番負担になることが考えられますが、その他の施策において負担の軽減となる内容が組み込まれています。

空き家の活用等の文脈で新設した「指定法人制度」や「空き家活用区域の設定」がそうです。これらは、負担軽減という観点からは、「アウトソースできる」「仕事のメリハリがつけられる」といった制度ともいえるでしょう。

また、除却等に関しても、略式代執行の際の費用回収の手続きを容易にしたり、所有者不明の場合のみならず管理不全の場合にも市町村が「財産管理人制度」の選任請求ができるなど、法改正により円滑に進められるようになります。

③民間団体への影響

これまで、すでに民間企業と自治体との協定による取り組みは行われていますが、今回の法改正による「支援法人制度」により、公民の連携が「法に基づく仕組み」としてより信頼性・信用性をもって安定した運営を行うことができるようになります。

空き家対策の取組みを行う民間団体の皆さんには、「支援法人制度」を上手くつかって、忙しくなるであろう公共団体を支援してほしいと思っています。

★POINT★ ・空き家所有者への大きな変化としては、「管理不全空家等」が新設され、自治体より勧告を受けると固定資産税の優遇措置が解除されること
・自治体にとっては、空き家の活用・除却のための施策がより円滑に進められるような仕組みが設けられた
・空き家対策に取り組む団体としては、「支援法人」の制度により法に基づく連携ができるようになることで、安定的な空き家対策の運営ができるようになる

4.全国空き家対策コンソーシアムへの期待

空き家対策において「全国空き家対策コンソーシアム」に対する期待はありますか?

これまでも国土交通省はモデル事業(※)という形で民間団体の空き家対策の取組みを応援してきました。なぜそのような支援を行うかという背景には、公共団体が全ての課題解決の仕事をすることは不可能な中、ビジネスによって解決していくことが必要なのではないか、という考えがあります。

空き家の問題は驚くほど多くの分野にまたがっています。

例えば、空き家の解体だとしても、解体後に跡地が発生し、活用・売却といった次のフェーズがあり、違う分野・プレーヤーの出番となっていきますよね。

異なる分野が繋がっていかないと空き家対策は進めていけない中、多くの分野の企業が集まる場としてコンソーシアムが設立されたことは大きいと思います。

新たなアイデアとは、異なる視点を持つ人との交流から得られるものだと思います。他の分野に携わる人と会話し、発想がスパークするものと考えています。コンソーシアムによる分野を超えた交流は有意義で画期的な取組みだと思っています。

「全国空き家対策コンソーシアム」が空き家対策に対して、どのような新たなアイデアを与えてくれるのかというところに期待をしています。

石井様、インタビューにご協力いただきありがとうございました。

(※)空家等対策の推進に関する特別措置法の財政上の措置及び税制上の措置等(第15条関係)における取り組みとして空き家対策モデル事業を行っている:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html

国土交通省 住宅局 住宅総合整備課 住環境整備室 室長 石井秀明氏
プロフィール

1970年新潟市生まれ。1997年京都大学環境地球工学科から建築技官として建設省へ入省。

住宅性能表示制度の創設、省エネ法改正の検討、バリアフリー新法の施行、コンパクトシティ新制度(立地適正化制度)の普及、空き家対策、建築物木造化などに携わる。

また、自治体や他省庁への出向時には、再開発ビルの経営再建(出資者・債権者交渉、ヘッドハンティング、労働争議対応)、英国式庭園の再生、行政代執行の指揮、賃貸住宅「追い出し屋」への対応、貴金属訪問買取への対応、留学サービス業適正化、リコール情報サイトの作成など、幅広い業務を経験。

2023年7月、4年ぶりに住環境整備室に戻り室長に就任。「改正空家法」の円滑施行に携わりつつ、現在に至る。

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